Andrew W. Houstonは、アメリカのインターネット起業家であり、オンラインバックアップおよびストレージサービスであるDropboxの共同設立者兼CEOです。フォーブスによると、彼の純資産は約22億ドルです。
伝説のスピーチ
今日皆さんは何回もこれを聞くと思いますが、誰よりも先に言わせてもらいます。
2013年卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます!
今日この日を迎える事をとても嬉しく、誇らしく思われていることと思います。
私もここに戻ってこられたこと、そして今日ここに迎えていただいたことをとても嬉しく思います。
今でも毎日卒業記念リングをしています。
この指輪を手にした瞬間は、今でも人生の中で最も誇らしく思った瞬間のひとつです。
この日がなぜこんなに特別な日なのか。
これには、いくつもの理由がありますが、私にとっての理由は、
今日から皆さんは常に「合格」を目指す必要がなくなるということです。
ここまで来るのに、バスケットボールでスコアをとったり、テストに合格したり、大学に入ったり、クラスを取ったり、学位をとったり、請求書を払って仕事に行ったり。
今日それが終わります。
人生をプランする中で一番大変なのは、これからどこへ行くのかわからない、でも少しでも早くどこかにたどり着きたい。
人々は「会社をやったらどうだ?」とか「きっと君は癌の治療法を見つけるよ」だとか「きっと君はベストセラー作家になるよ」とか言うかもしれません。
でも皆さんは、
「そんなこと言われてもわからないよ! ものすごい失敗をするかもしれないし!」
と言うかもしれません。
私は卒業の日を迎えたとき、自分が何がしたいのか全くわかりませんでした。
皆さんが座っている場所に私が座っていたのは、そんなに昔のことではありません。
私の卒業の時も雨が降っていました。
ここで皆さんの前で話をしているなんて……。こんな風になるなんて想像もしていませんでした。
というよりも、私には将来設計なんてものがありませんでした。
今思えば「卒業時に将来設計をしておけ」と言う方が無理な話だと思います。
今日から皆さんが歩み始める人生と、もしも私が2006年に戻れるのなら何をしたいか、ということを考えてきました。
皆さんがここにいる理由は、皆さんが賢く、真面目に一生懸命やったからということに尽きるでしょう。
しかし誰も「変化すること」が成功へのキーだということは教えてくれなかったと思います。
なので、私が皆さんにお話したいのは、「私が卒業式に聞きたかった話」です。
難しいことはお話しません。
「テニスボール」「サークル」そして「30,000」が鍵です。
「何を言っているんだ?」と思っているでしょう? 説明します。
最初の挫折
私は最初の会社を、あるチェーンレストランの座席で21歳の時に立ち上げました。
共同設立者と私は今まで会社を立ち上げたことなどなかったので、市庁舎へはスーツを着ていかなきゃならないのかな?
重要書類に捺印するのに社印が必要なのかな? これは一大事だ。などと思っていたのですが、実際のところはオンラインで必要事項に記入して送信。
ものの2分程度で会社を設立することができました。
あまりロマンがなくがっかりしましたが、5分後には私達はビジネスオーナー、オニオンリングを食べながらSAT受験者の為の新しいオンライン講座を開設するビジネスをやることに決めました。
当時の若者は、800ページくらいある本を使って勉強しており、
他社のオンライン講座にはあまり優れたものもなかったので、とてもいいアイディアだと思いました。
それこそSATに出てくるボキャブラリー
「Accolade」これは名誉、賞の意味ですが―、
これを使って 会社をThe Accolade Group, LLCと名付けました。
この方がかっこいいと思ったからです
チェーンレストランからの帰り道、
文房具店に寄って名刺プリント用紙を買いました。
会社を始めたらまずまずやることは、フォトショップでロゴをつくって、「Founder」とプリントされた名刺を刷ってカンファレンスでばらまく!
そして女性を口説くキメ台詞
「そうなんだ、僕は会社をやってるんだ」を練習することだと思っていました。
楽しかったですね。
真面目な話に戻ると、一番楽しかったのは新しいことを学ぶことでした。
毎年夏はフラタニティーハウスで過ごしました。
その家の5階には屋根の上へ続く梯子がありました。
私は屋根の上にナイロンの緑色の椅子とAmazonで買い貯めた本を毎週末持ち上がり、新しいことを学びました。
セールス、マーケティング、企業方針、マネジメント等、私の知らなかったことすべてです。
まさかフラタニティハウスの屋根の上でMBAの勉強をするなんて思ってもいませんでしたがね。
しばらくはよかったんです、でもそれから数年後事態は悪化し始めました。
どんどんやるべきことが滞りはじめ、ある日思ったんです。
「もうこんな数学なんかやってられるか!」と。
私の何かがいけないんだ、と思いました。
やるべきことをきちんとできない自分にイラつきましたし。
自分の会社をやるのは長年の夢でしたが、元々私にはできるはずもなかったことなんだと思い始めました。
なので少し休むことにしました。
皆さんがコース6(コンピューターサイエンスのクラスのひとつ)を取ったかはわかりませんが、私は取っていたんですね。
コース6を休むということは、時に「ポーカーボット」を書くことと同じなんですね
オンラインポーカーゲームをやったことがない人の為に説明しましょう。
オンラインポーカーの世界では、長時間パソコンの前に座ってクリックし続けた結果、負けてお金も持っていかれるというのが常です。
ポーカーボットが何をするかというと、コンピューターにゲームを任せて、負けて、お金を持っていかれる。
そう、このシステムをつくったのです。
でも私は、もうこれに夢中でした。
この時期に両親はニューハンプシャーのコテージで家族で週末を過ごそうじゃないか、と言いだしたのですが、
私はポーカーボットの開発を続けたかった。
私は彼らのところへ出かけます。
「元気、母さん?」とあいさつした次の瞬間、私は車のトランクから100パウンドはあるであろうワイヤーとコンピューターを取り出して、湖畔のコテージにずるずると担ぎ込みました。
ダイニングルームのテーブルは少し小さかったのでコンロの上のフライパンなんかをどかして、モニターなんかを置く場所をつくったんです。
母が入ってきて、「あなた何やってるの!?」と言いました。
彼女は私の刑務所行きは決定だと思ったのです。
ここでちょっと話が逸れますが、私は両親には多大な迷惑をかけました。
ここにいる皆さんも、皆さんのご両親にたくさん心配をかけられたことと思います。
なのでここで皆さんがここまで来るのをサポートしてくれた、皆さんのご両親、大切な人たちに感謝しましょう。ありがとう!
テニスボールを追いかける犬
好きなことを仕事にしなさい、と言おうと思ったのですが、その言葉は実はあんまり意味がないんです。
なぜなら、みんな、今やっていることが自分の好きなことだと、簡単に思い込んでしまうからです。
誰も、自分が嫌いなことをやっているなんて思いたくないものですよね?
こう考えてみると、
”最も幸せで成功している人たち”は、
”自分の好きなことをしている人”という訳じゃないんです。
”自分にとってのチャレンジを攻略することに夢中になっている人”で、
その人にとっては、それがとても大切なことなのです。
そんな人達は、”テニスボールを追いかける犬”に似ています。
そんな人達の目は狂気を宿しているほどです。
リードを振り払って、駆け出し、何があってもボールを追いかけます。
私の友人にも、たくさん働いてたくさんお金を稼いでいる人はいます。
でも、みんな、仕事机に縛り付けられているみたいだと愚痴をこぼします。
問題は、多くの人が、すぐには自分のテニスボールを見つけられないということです。
誤解しないでくださいね、
私も、私の次にスピーチする人と同じように、標準的な試験も好きですよ。
でも、SAT試験対策講座の覇者になることは私のテニスボールではなかったのです。
びっくりすることですが、ポーカーボットとDropboxは、気分転換でやっていた遊びです。
当時のメインの仕事中も、頭の中では小さな声が「こうすればいいポーカーボットができるよ」と囁いてきますが、
いつだって私は
「黙ってろ、仕事ができないだろ」と言って、その声を黙らせていました。
でも頭の中の小さな声が、一番正しいんですよね。
これを理解するのには時間がかかりましたが、でも、
人が一生懸命働けるというのは、人よりも優れているからという訳ではないのです。問題を解決するのが楽しいから一生懸命働くのです。
だから今からは、自分自身を追い詰め一生懸命やるのではなく、自分を惹きつけるテニスボールを見つけるのです。
時間がかかるかもしれません。
でも見つかるまでは自分の声に耳を傾け続けてください。
サークル
さて、私が卒業してすぐの夏の話に戻りましょう。
皆さんにもこの夏がやってきます。
フラタニティ・ブラザーのAdam Smith(アダム・スミス)と、彼の友人Matt Brezina(マット・ブレジーナ)が、会社を始めました。
私は、1つのアパートで、みんな一緒に働ければ、きっと面白いことになるだろうと思いました。
最高の夏でした。
いえ、”ほぼ最高”の夏でした。
エアコンが潰れていて、ボクサーパンツだけを着てプログラミングをしていましたからね。
アダムとマットは一日中仕事をしていました。
そんなある時、
アダムとマットが、
「ちょっと投資家に会ってくるよ、ビジネスの秘訣を教えてもらって、ヘリコプターにも乗せてもらうんだ!」
と言うのです。
私は少し嫉妬しましたよ。私はその時点で自分の会社を数年やっていました。
でもアダムはまだほんの2か月です。
「俺のヘリコプターはどこだよ!」ってね。
そして事態はどんどん悪い方向へ進みます。
8月も過ぎていき、アダムが悪い知らせを持ってきました。
アダムたちが引っ越すと言いだしたのです。
私のホットポケットがなくなるだけでなく、シリコンバレーに引っ越すと言うのです。
彼らは本格的に動き始めました。
そして私はまだ…。
しばらくしてからアダムに電話して、近況を聞いてみました。
”全てうまくいってるよ、今日はVinod(ビノッド・コースラ)に会ったんだ。”
と言うのです。
ビノッド・コースラは大金持ちの投資家でサンマイクロシステムズの共同設立者です。
そしてアダムは僕に特大の爆弾発言を投下しました。
”彼が僕らに500万ドル投資してくれるんだ”ってね。
私もとても嬉しかったのですが、反面ショックでもありました。
アダムは気の置けない飲み仲間で、フラタニティの弟分、2歳年下です。
言い訳はできない。
アダムはスーパー・ボウル、私はドラフトにも選ばれていないと。
アダムは気づいていないと思いますが、私にとっては、目覚めのキックだったのです。
私が自分を変える時だったのです。
“あなたの価値は、自分と一緒に過ごす人の5人の平均値で決まる”とよく言われます。
少しだけ考えてみてください。
あなたのサークルにいる5人は誰ですか?
あなたに良いニュースがあります。
MITはあなたのサークルを作るのに世界で最も優れた場所の1つなのです。
もしも、私がMITにいなかったら、アダムに出会っておらず、
私の素晴らしい共同創業者:アラシュにも出会っておらず、
Dropboxも生まれていなかったでしょう。
自分に刺激を与えてくれる人と一緒に過ごすということは、自分に才能があることや一生懸命に仕事をすることと同じぐらいに大切である、と学びました。
もし、マイケル・ジョーダンがNBAにいなかったら?
もし彼のサークルの5人がイタリアのカッコいい男達だったら?
あなたのサークルの人達が自分を高めてくれるのです。
アダムが私にそうしてくれたように。
これからは皆さんの周りのサークルは広がっていきます。
同僚や周囲に住む人々。
どこに住むかはとても重要です。
MITは世界にひとつだけ、ハリウッドも、シリコンバレーも世界にひとつだけの場所です。
自分がどの道に進もうとも、それは偶然ではありません。
その道には必ずその道の最高の人達が集まる場所があるのです。
その場所に行くべきです。
他の場所で落ち着いてしまってはいけません。
自分の尊敬する人達と出会い、彼らから学べることはとても大きなメリットなのです。
尊敬する人達が自分のサークルの一部になるのです。
そして彼らから学んで下さい。
もしも他の場所で、自分の中で真の何かが動き出したのなら、そこへ引っ越すべきです。
卒業後に陥りやすい最後の罠は”準備が整っている”ということです。
誤解しないで下さい。
学び続けることは最も重要なことです。でも、”実際にする”ことが最も早く学ぶ道なのです。
何か夢を持っていて、その夢の為に、一生をかけて学び、計画し、準備をしながら過ごすこともできます。
何かを始める
でも、今皆さんがしなければならないのは始めることです。
私だって、今まで一度も”準備万端”だったことなどありません。
投資家達が「分かった出資しよう、どこにお金を送金すればいい?」と言った日を覚えています。
24歳だった私にとって、それはもうクリスマスみたいなものでした。
クリスマスプレゼントを開けるみたいに、bankofamerica.com(銀行のサイト)にアクセスし、
会社の口座残高が60ドルから120万ドルになる瞬間を見逃すまいと、更新ボタンをひたすらクリックしていました。
最初は、有頂天でした。
”残高にコンマが2個もついてる!(100万ドル以上)、この画面をスクリーンショットで保存しておこうか!?”って。
でもそこで変な感じがしたのです。
”ある時このお金を返せって言われるってことだよな?俺は今何をしようとしているんだ?”って。
皆さんもこのような話を知っているはずです。
MITではこれを”消防ホースから酒を飲む”と言います。
こんな言葉を聞くだけでも楽しくなってしまいます。
でも、酒を飲んだ後、胃の中が内出血でボロボロになっていることに気づくのです。
それでも、いい面があるということを知ることもできます。
今日、また一つその”ホース”のバルブは閉まってしまいました。
次は、皆さんが、別の”ホース”を見つける番なのです。
私にとってドロップボックスがその”ホース”でした。
皆さんの想像通り、この会社を立ち上げた時のことは、今までの人生で一番興奮した、楽しくて、満たされた経験でした。
でも私が言いたいことは、それと同時に最も辛く、苦しく、恥をかき、イライラした経験でもあるということです。
これまでにした失敗の数は数えきれないほどです。
幸運にも、失敗はそれほど問題ではありません。
誰にも、オール5のパーフェクトな人生を過ごすことはできません。実際、卒業したら、皆さんのGPA(学校の成績)なんて関係なくなります。
学校にいる時は、小さなミスは全てあなたの後々に傷を残します。
でも、社会に出てからは、フラフラもせず、一度もガードレールにぶつからなかったとしても、それだけでいいと言う訳ではないのです。
最大の過ちは”失敗”ではありません。
失敗がないということは居心地が良すぎるのです。
ビル・ゲイツの最初の会社は信号を操作するソフトウェアを作っていました。
スティーブ・ジョブズは最初の会社では、無料で話ができるプラスチックの笛を作っていました。
どちらも失敗でした。
でも、彼らがそんなことで悔やんでいるなんてことはないでしょう。
今日を変えることは私が最も好きなことです。
これからは、皆さんは人のミスの数など考える必要はありません。
これからは、失敗は大した問題ではありません。人生でたったの1度、正しければそれでいいのです。
昔は私も心配ばかりしていました。
人生は30000日
そんな私が、自分の心配性を直したのは、こんなことがきっかけです。
サンフランシスコに移ったばかりのある夜、眠れずにインターネットを見ていました。
そんな時”あなたの人生は30,000日”という言葉を見つけました。
最初は深く考えなかったのですが、なんとなく計算機で”24歳×365日”と打ち込みました。
なんてこった、もう9,000日近く終わっちゃってる!今まで何をやっていたんだ!
と思いました。
ちなみに皆さんは8,000日使っていますよ。
さあこれが”成功へのカンニングペーパー”に”30,000″と書かれていた理由です。
その夜、”もう準備をしている暇なんてない、練習は終わりだ、リセットボタンなんて無いんだ”と思いました。
毎日、私たちは少しずつ自分の人生の物語を綴っていきます。
そして死ぬその日の物語は”ドリューここに眠る、彼は174番目に死にました”などという文章ではないはずです。
だから、私は人生をパーフェクトにするのではなく、おもしろい人生にしようと。
自分の人生の物語をアドベンチャーにしたいのです。その気持ちが他人との差となるのです。
祖母が今日、ここに来ています。
来週は、95歳の誕生日をみんなで祝うことにしています。
以前、カリフォルニアに引っ越したことに関して、家族と電話で少し話しました。
そんな電話で、いつも心に残っている言葉があります。
祖母がいつも電話の最後で言う言葉”Excelsior(エクセルシオール)”。
これは、”常に向上心を持って”という意味です。
そして今日、皆さんの卒業式、あなたの実社会での初めての日に、皆さんのご健闘を祈っております。
完璧な人生を歩むのではなく、冒険をするために、自分を自由にしておくこと、常に向上心を持って。